キューピッドさんは二重人格者だ。
普段は温和で笑顔の素敵なそんまんま天使のようなキューピッドさん。
そしてそのキューピッドさんに隠れてる二人目が白妙さんだ。
彼はキューピッドさんとは正反対の性格をしていて、凶悪を体現したようなひと。
どこかキレちゃったカンジで、テンションが高い。
人殺しだっていっても通りそうなくらい危なくて、普段は全然出てこない。
にやにや笑う白妙さんはぜんぜん笑ってない冷たい目で私を見ている。
私はそんな彼を睨み返した後、口元だけで笑って首を少し、わかるか分からないかくらいに傾けた。
彼にはそれで、十分。
「…あーひとつ質問。 せめてこーゆー場合はむしろフォークの方が良かったなーなんて言ったら怒るキューピッドさん?」
「はあッ?! は、きゃははっ、相変わらずいー性格してんじゃんよぉシンデレラっきゃはははは! 僕の名前わざと呼び間違ってんだろついでに僕は朝が弱いんだよ呼び出すなっつってんだ殺すぞ」
…やっぱり不機嫌らしい。
目が据わってるので恐ろしさ3割り増し。
せめて凶器を置いてくれ多分素手でも瞬殺されるだろうけど。
…とりあえず謝っとこう。
「ごめんごめんだって今日昼から学校行かなくちゃいけないんだもん」
「ほーぅ、それが人に謝る態度かァ? …棒読みじゃねえかよナメてんのか死ね」
謝罪はお気に召さなかったらしく、ぐいぐいスプーンを押し付けてくる白妙さん。
いたぶるのが目的らしく肌を突き破らない程度に突き刺してくるので地味に痛い。
「痛いやめてホントにごめんさい死神さんが絶対今日中とか言うんだもん私もホントはこんな時間にここに来たくなかったあっ?!」
「…はんっやぁっと吐きやがったか。 にしても右京輪廻ねぇ…」
スプーン攻撃を中止してめんどくさそうに頭をかく白妙さん。
顔が思いっきりしかめっ面になっている。
綺麗な顔が台無しだ。
「知ってるの?」
「んー…知ってたく無いっつーか、係わり合いになりたくねぇっつーほうがいいな。 特に今はアイツも完全復活できてねぇし。 …ふん、つーわけで僕は…シラぁ切って引っ込む」
「えぇッ!? 知ってんでしょ?! 教えてよ!何?!私は殺され損のくたびれ儲け?!」
「しんでれらー、ソレふつーに死んじゃってるよー儲けてないよー」
「アンタもそんなトコで呑気に見てないで助けなさいよフェニックス!」
その後、どんなに呼んでも白妙さんは出てこなかった。
仕方ないので、私はキューピッドさん特製イタリアン・スパゲッティを常人サイズでおいしく頂き、フェニックスに元気いっぱい送り出してもらってマンションを出た。
時計の針はもう2時をさしていた。
「あちゃ…ダメだわ、完全に遅刻…。 仕方ない、こうなったらケルベロスのトコも寄っていこう」
あのビル、嫌いなんだけどなぁ…。
私は昨日いろいろあって、だいぶ軽くなった財布を取り出しながら駅へと足を向けた。
稼動中のパソコンはとても熱くなるから、涼しいところに置いておくんだと誰かが言っていた。
「ふーん…それで、白妙が話さなかったから僕に聞きに来たと? ふーん、そう…白妙が話さなかったから…?」
「ゴメンってばぁ…違うの! だって…キューピッドさんがもし話しててもケルベロスに話にきたよ? ねえ、お願いだからこっち向いてってぇ…!」
部屋中が機械で埋め尽くされ、ぶっといコードが、まるで蛇のように床中を這いずり回っているそんな中。
唯一の家具である、赤いふかふかソファに腰掛けて、私は何故か弁解していた。
相手は前方でキーボードを3つ、目の前に置いて、なにやら作業中の少年。
見たところ、またも小学生。
しかしフェニックスみたいになんちゃって、では無く、彼は正真正銘の小学生世代である。
実年齢、若干10歳。
肩までのストレートの黒髪に、半袖でぶかぶかのパーカー。
折れそうに細い手足に、大きすぎるスリッパ。
彼こそが死神の中枢器と呼ばれる存在。
魔導師(エインシャント)、ケルベロス。
「……ね…?」
件の天才少年は、拗ねているのか私を見もしない。
案外、可愛いヤツだった。
「はっ?! え、何?!ゴメン聞こえないんですけど…?」
「…から………だし?」
なんだかぶつぶつ言っている風なのだが、機械共の稼働音が五月蠅過ぎて全く以って聞こえない。
「ゴメン本気で聞こえな…ッ?!」
声を聞き取るべく腰を浮かし、身を乗り出して持ち上げた手を。
「つっかまーえたー」
ケロベロスの、後れ毛でつくった三つ編みが顔のすぐ上で揺れている。
蛍光灯の光が、とてもよく見える。
「は…?え…?ちょ、ちょっと待って? なんで私ケルベロスに捕まってんの? …そしてなんで私の顔に手を伸ばしてくるのかなあケルベロス君?!」
「えー?そりゃあ自業自得ってヤツなんじゃないかなあシンデレラ?」
またも前言撤回。
可愛くなんか無かった。
めちゃくちゃ性格が悪い。
不敵な笑みが、コレでもかと言うほど良く似合う。
馬乗りになった時に関節を押さえられたらしく、痛くは無いけれど体が全く動かない。
ヤバイ。
これはヤバイ。
ちょっと睨んでみた。
「…後払い制度だったと思うんですけど」
「何ぃ?僕のコト馬鹿にしてる? 僕、フェニックスほどじゃあないけど記憶力はいいんだよ? …この前の御褒美、僕まだもらってない気がするんだよねー」
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