建物は見た目以上に簡素な造りをしていて、見た目以上に広かった。
更に、あちこちに修繕痕が目立つのは外装だけではないらしく、中にはあり合わせの木材を無造作に当てただけで塞がっていない穴まである。
そして、それにもましてルイが一番驚いたのが、この古い建物が収容している子どもたちの数。
その数は決して20や30では無いのだ。
軽く50は超えるだろう人数の、この建物の中で身を寄せ合って暮らしている子どもたち。
年はバラバラのようだが、みんな一様に背が低く、可哀想な位にやせ細り、傷だらけだ。
こんなにも沢山の孤児が、この街の影に追いやられている。
それが何より、ルイには衝撃的な事実だった。
「…ルイ、レプサングラスがどんな街か、知ってるか?」
居間に案内され、ある程度落ち着いても尚、驚きを隠せないルイにユウが問うてくる。
ルイは首を傾げた。
ルイの隣でミヨとサヤも首を捻っている。
「え…と。蜃気楼の街?」
しばし思考した末、ルイが捻り出したその答えはユウの期待には添わなかったらしく、彼は肩を落として頭を抑えた。
「まあな…そう、元は蜃気楼が出るほど、暑い街だ。今は…まあ、寒いくらいだが。少し山側に戻ればこうして森もあるが…開墾することも出来ない。1年や2年で全く使い物にならなくなるからだ。砂漠地帯なんだよ、あそこは」
一気にそこまで言ったユウは言葉を切り、ばつが悪そうに目を逸らした。
そして、逸らしたまま、だから、と低い声で続ける。
「治安も当然、かなり悪い。そして…そういう治安が悪い街で、一番初めに排除されるのは…」
そこまで聞けば、あまり察しの良くないルイでも分かる。
決まっている。
一番初めに排除されるのは、働くことが出来ない老人や子どもたちだ。
「じゃあ、この子たちってあの街の…」
レプサングラスの。
「大抵は、そうらしい。中には別の者もいるらしいが」
最後まで低い声で言い切ったユウは横目にルイを見て、また直ぐに目を逸らした。
「大丈夫か、お前」
「え?」
きょとんとするルイを見てユウは首を振った。
「…いや、大丈夫なら、良いんだ。忘れろ」
なんの話なのか全く分からないルイが首を捻っていると、急に背中が重くなった。
更にサヤの慌てた声。
どうやら大人しくするのに限界を感じたミヨが、ルイに乗っかっているらしい。
「なんの話ですか?2人だけ、ズルいのですよう。ミヨにも教えて下さい」
「誰が言うか」
一言で切り捨てたユウは、前髪を梳いてそっぽを向く。
ルイに乗っかったまま暴れだそうとするミヨに危険を感じたらしいライルは、すでにサヤの頭へと移動済みだ。
「み、ミヨ、さっきのユウの話は悪いんだけど僕も分からないから、2人だけじゃ…うわ、ちょっと、痛い痛い、頭が痛いってば」
なんとか弁解を試みたルイだったが、話を聞いていないミヨが途中から暴れ出す。
まあ、彼女の体重は信じられないぐらい軽いので潰される恐れは無いのだが、彼女は手加減を知らないのでかなり地味に痛い。
そして更に、そんな礼儀のなっていないルイ達の様子を、いつの間にか集まって来た孤児の子らが少し離れた所から観察していた。
どうやら近付いて来るのは怖いが、気にはなるらしい。
どこから湧いてくるのか増え続ける子ども達。
そして凝視されてもまるで堪えていないミヨと、かなり前から真っ赤なサヤ。
素知らぬ風のユウに色んな意味で潰され気味のルイ。
相手をしてくれていたクロウが女の子達に呼ばれたので、帰ってくるまで待っているつもりだったのだが、なにがなにやら、しっちゃかめっちゃかである。
特にミヨに至っては当初の目的をすっかり忘れ去っている可能性が高い。
「おいちびっこ」
そんな4人に話し掛けて来たのは、野次馬をしていた子どもの中でも比較的背の高い少年だった。
ただミヨをちびっこ呼ばわり出来るほどの身長はない。
サヤよりも若干小柄で、せいぜいルイくらいである。
「暴れるんじゃねえよ。汚くなんだ…ってぇ、なにすんだレキ」
半身を引いた臨戦態勢で噛み付くようにそう言った少年の頭を絶妙のタイミングで掴んだのはレキだった。
「お前こそお客さんに何デカいクチ聞いてんだよ。そんなにヒマなら風呂焚きさせんぞ?」
「な、何でだよ。そっちこそ、ちはやを連れ戻しに行ったんじゃねえのかよ。どうせ、また捕まえられなかったクセに」
「…はあん。そんっなに風呂焚きがしたいか。分かったついてこい。…お前らも飯が食いたきゃ、ちゃんと働け」
悲鳴を上げる少年を無理やり引きずりながら周りの子ども達にも威嚇した後、レキは4人を振り向いた。
「そういや、もう灯石は見たか?」
「アカリイシ?」
「いや…それ以前に、こんな場所にあるのか」
まず何の話なのかが分からないルイ達に代わってユウが答えると、レキは嬉しげに歯を剥きだす。
「おうよ。夜中にチビどもが夜泣きしねえように、そこいらへん一帯に敷いたからな。見てくりゃ良いよ、まだ時間かかるっぽいし」
そんな大層な飯は出ないけどな、とレキは笑った。