嘘吐きは許さない。
僕から彼を奪った、彼奴は絶対許さない。
ユウが寝室に運び込まれ、2人にしてくれと頼まれてからしばし。買ってきた物を片付け終えたルイは椅子に腰掛け息を吐いた。
「るーい」
「わあ、吃驚した」
ちはやだ。
「…んん?」
ちはや…なのだが、なんだか雰囲気が違う。
「あ、髪切った?」
「切る訳ないでしょ」
伸ばしてるんだからと後ろを向いた彼の髪は、確かにそこにあった。ただし普段が普段なので随分とこぢんまりした印象ではあるが。彼のかなり自己主張の強い癖毛は、束ねると纏まる性質があるらしい。
「やること無くてさ。もうホント、困るっていうか。あんまり暇だから指先の訓練がてら組み紐を作ったんだ。裏の方に蕁麻が生えてたし」
「へぇ、糸じゃなくても出来るんだ?」
「…ルイってなんにも知らないよね」
大袈裟に溜め息をついたちはやが、ルイの隣に腰を下ろす。
「それにしても、みんな嘘が下手だね。隠すならもっと上手くやらなきゃ」
「…聞いたの?」
ちらりと視線を投げてよこした彼は器用に口の端だけを持ち上げて笑い、残念でしたと言った。
「もう手遅れでしょ。誤魔化して丸め込むには僕は色々知りすぎてる」
ルイは何も言えなかった。
黙り込んで俯くルイに肩を竦め、ちはやはまた溜め息を吐いた。
「…アイツ、また嘘を吐くつもりかな」
飛んできたライルに右手を突き出しながら、ちはやはゆっくり目を伏せる。年に似合わず哀愁を帯びた瞳は、ライルを通り過ぎてどこか遠くを見ていた。
「ユウにも、自分にも嘘を吐いて、関係ないって、そう言い張るのかなぁ…自分のことなのに、ユウは何も知らないの?」
「…多分」
例え知っていたのだとしても、彼は殆ど自分のことを喋らないから分からないのだけど。彼のあの必死な様子からルイが判断する限り、彼は何も知らないような気がしていた。
「でも、それっておかしな話じゃない?」
「なんで?」
普段、ルイの頭の回転はあまり良くない。
「だって、アイツがユウの顔を潰したんなら、ユウはアイツの顔を見てるだろ?それにこの街の生まれなら普通、何かしら覚えてるよ」
なにかがズレている。どこかがおかしい。結果としては分かっているのに、原因として分からない。
辻褄が合わない。しっくり来ない。
なんだ。なにがおかしい?
「まだなにか、あるよね。ユウにも、アイツにも」
ユウが歪んだ、その原因は。
間違いなくリーゼロッタで生み出されたユウに此処での記憶が無い原因。それがもし、此処に無いとするならば。
「…アンバールか」
「それが一番妥当かなって。で、サヤに色々聞いた。まあ魔法が胡散臭いってのは抜きにして考えたら、封印ってのが一番怪しいとボクは思う訳なんだけど」
封印は解放と対になる最高ランクの補助魔法だ。その効力は所謂鍵であり、なるほど、それならすっぽり抜け落ちた記憶に今までなんの違和感も感じなかったことも頷ける。
しかし、彼の魔法は最高ランクに位置付けられるだけあって扱いが難しく、術者の魔力に強い影響を受ける為に継続的に効果を発揮するには相当な魔力を必要とする。相応の魔力の持ち主に、ルイは一人しか心当たりが無かった。
「…ううん、そんな筈無い。だって、どうしてレシアが」
「そういう細かい話は分からないけど」
凛と張った声。
ルイを見据えるちはやは冷静だった。
「客観的に、そのレシアってひとが一番怪しいってこと。まだ確定した訳じゃないけど、それなら封印の効果が切れてきたって、そういう説明もつくって」
それはそうだ。アンバールの中核である要の塔の中、ルイ達はその目で、事実としてレシアの死を確認している。
出来れば、叶うなら嘘であって欲しかった、何度も夢に見る現実だ。
けれど、ならば尚のこと。
「でも、ユウを塔に連れてきたのはレシアなんだよ?それは僕も良く知ってる。だってその場にいたんだもの」
もし仮に、レシアがユウに封印を施したのだとしても、その真意が分からない。
リーゼロッタで生まれたユウがアンバールにやって来たのは、彼がカネディアの街道で行き倒れているのをレシアが偶然拾ったからだ。当時レシアにべったりだったルイは、レシアがユウを拾うまでの経緯を詳細に至るまで良く知っている。
ユウはアンバールについて何か知っていた訳でも、況してアンバールの魔法使いに怨みを持っていた訳でもなかった。下手をすれば、アンバールと言う都市の存在さえ知らなかった彼に、レシアが封印をかける必要などどこにもない。
ルイの話を聞いたちはやは、なにかしら考え込むような仕草をし、それから、外に出ようと言った。
「もしかしたら、ボクらはなにか大きな勘違いをしてるのかもしれない」
「じゃあ、あたいも一緒に行こっかなぁ」
「!」
いつの間にか窓の縁に腰掛けて笑っている少女にルイは見覚えがある。
「アスカ?どうして此処に」
「あら。だって遊行商だもの。喚ばれれば何処へでも参りますわ」
「成程、政商って訳か」
「まあ、なんて人聞きの悪いことかしら」
ちはやの皮肉に対し、アスカが大袈裟に目を見開く。
「お兄さん達、紹介状を持って無いって風の噂で聞いたんだけど。どう?あたいを連れてれば、行動制限も然う然う掛かんないよ」
エルフの工場に行くんでしょうとアスカは笑った。