一度でいいから、君と一緒に大好きなこの街を歩いてみたかったんだ。

念には念を入れて窓から外に出た3人と1匹は、アスカを先頭にして北を目指した。ルイとちはやは街の地図を見たことが無い上、前を行くアスカは生返事しか返さないので何処に向かっているのか定かではないが、リーゼロッタは北向きに広がる街のようなので大方間違ってはいないのだろう。
「ところで。お兄さん達はどうして此処に?」
器用に後ろ向きで歩くアスカに対して、ちはやは露骨に苦い顔だ。
「…そのお兄さんっていうの、止めてくれない?絶対ボクらの方が年下だし」
「うーん、じゃあなんて呼びましょ?」
「普通に名前で呼べば良いでしょ。ボクはちはや。こっちはルイ」
「ちはやにルイね。記憶したよ、万年先まで」
アスカは不思議な節回しで言って、小首を傾げた。
「お兄さんは飛脚でも始めたのかな?」
「だからお兄さんは止めろって」
笑っているように見えるアスカの目に感情は無い。青いとばかり思っていた瞳は微かに緑がかったターコイズだ。
ちはやは口を噤んだ。
違う。
アスカは足を踏み換えた。
「…それとも、実は双子なのかな?」
「…っ、クロウを見たんだなっ?いつ、どこで」
「早計はいけませんわよ。果たしてあたいは本当に信用出来るのかしらん」
勢い込んで掴みかからんばかりのちはやを押し止め、嘘を吐くかもしれないしとアスカは笑った。
「他に何も情報が無いんだ。キミが嘘を言ってた所で、判断のしようが無い」
「あら、意外に潔い。好きよ、そういうの」
「そりゃどうも」
アスカの笑顔にちはやがひょいと片眉を上げて応える。皮肉と取ったらしい。
「結構色んな場所で見たよ。最近は2月ほど前に此処で。髪染めたみたいだね。初めは気付かなかった」
「2月前だって?アスカ、今は何月?」
ちはやが素っ頓狂な声を上げた。
ルイ達がアンバールを出発したのは月無月の中旬だ。レプサングラスに着いたのは月無月の下旬で、山間の村でシェヴルとペコラに襲われたのが火野月初め。まともに計算すると日数が合わない。
ルイは原因を知っていた。
「今?今は土肥月の第3週4日目だよ」
3月も飛ばしたのか。
ちはやがルイを小突く。彼の目が説明しろと言っている。
申し訳無く思いながら、ルイはちはやの訴えを無視した。
「木生月にここで?」
「うん。そういえば、ルイに会ってからかな?あたいらは木生から此処で足止め喰らってるから、それから見てないけど」
飛ぶように歩くアスカが辺りを見回して唸り、何処からか取り出した杖で石畳を叩いて遊ぶ。蒼い光が踊るようだ。
「…足止め?」
「おっと失言。…まあいっか、あたいはこの街の人間じゃないし。その内分かる」
着いたよ、と言ってくるりと回した杖の先で、今度は白い壁をつついて笑う彼女に、ちはやは半眼になっている。
「…どうやって入るんだよ」
確かに先ほど通り過ぎた入口には厳重な警備がしてあった。しかもここは入口とは全く関係無いただの壁である。
「あらこんな所に孔がありますわ」
「え、忍び込むの?」
「御名答。小柄でスリムなお子様様だよね」
言いながら既に彼女は体の半分を孔に突っ込んでいる。
「紹介状も糞もあったもんじゃないじゃないか」
「だって正面からじゃ入れてくれないんだもん」
しれっと言い切った彼女は壁の向こうから孔を通して右手を突き出す。
「はい、どっちでもいいけどどっちが先?」
「ボクが先」
言うが早いかちはやが孔に頭を入れる。なんだかんだ文句を言いながら彼の行動に迷いはない。
彼に続いて内部に入り、アスカが孔を隠している間、頭を巡らせて周りを見回してみた。白い。真っ白だ。
「…気味が悪い」
ちはやが眉をしかめた。
ルイも同感だった。しかし。
「でも、どこかで、見たような…?」
「へぇ、趣味悪いトコ知ってるのね。はいはい、コレ着て。目立つから」
「用意周到なことで」
アスカから受け取った白いローブを羽織りながらちはやが皮肉を言う。
「あたいは目立つの好きなんだけどさぁ」
商売道具でございます、とアスカが笑う。どうやらちはやの皮肉は通じないらしい。
「博士、やはり銀の34番を呼び戻すべきです」
「誰か来た」
アスカとちはやが素早く身を屈める。ルイは一拍遅れてちはやに引っ張られ、転けそうになりながらなんとか屈んで様子を窺った。
「アイツがサルトル・アトウッド」
譫言のように、ちはやの口が動く。
先ほど街中で見た老人が何人も白衣の青年を従えてドアの向こうを通り過ぎていく。
「追いかけよう」
満場一致で尾行が始まった。

 

 

 

 

 

 

 
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